鼠径ヘルニアの手術は、総合病院では若手外科医の登竜門的な立ち位置になりますが、良性疾患であるため、1回の手術で確実に治療しなければなりません。
そのためには、鼠径部の緻密な解剖の理解が必要になります。地域差がありますが、確実な手術を希望される患者様には、鼠径ヘルニアの専門施設を受診することを推奨します。
鼠径ヘルニアの手術では「筋肉の欠損部分を補強する」ことが必要になります。補強方法は、組織修復法とメッシュ(人工被覆材)を使用した2通りがあります。
【組織修復法とメッシュ(人工被覆材)】
組織修復法:弱り欠損し穴が空いた部分を筋肉や腱膜を縫合することで補強します。
メッシュ(人工被覆材):弱く欠損した部分にメッシュを当てることで補強します。
当院では、メッシュを使用した手術を主に行います。
以下にその術式について解説いたします。
鼠径部切開法
鼠径部切開法は、従来から存在している方法です。
病変側の皮膚を5〜8cm切開し、筋肉をよけながらヘルニアの飛び出ている腹膜と穴を確認します。この部分をメッシュで覆うか、メッシュを詰めることで修復します。
痛みの神経が手術部位に現れるので、術後の神経痛が出やすい傾向にあります。手術の所要時間は30分前後です。
【鼠径部切開法の利点と欠点】
利点:全身麻酔が必要なく局所麻酔で治療可能。
欠点:傷が大きくなるため、痛みが強く出やすい。
腹腔鏡手術
腹腔鏡手術は、1996年に日本に導入された方法です。
お臍と左右腹部に5mmの筒を刺し、お腹の中から手術を行います。ヘルニアの原因になっている穴を直接確認し、お腹の腹膜を広く剥離してメッシュを展開し修復します。
手術の所要時間は、片側1時間前後です。左右の手術になると2時間前後になります。
【腹腔鏡手術の利点と欠点】
利点:確実にメッシュを展開できる。鼠径部切開法と比べて痛みが軽い。反対側の確認もできる。
欠点:全身麻酔が必要。手術時間がやや長い。
当院の治療
当院では、腹腔鏡手術をメインに行います。執刀は専門知識と腹腔鏡手術の専門技術を有した院長が行います。
ただし、以下に該当する方は、腹腔鏡手術を行えない/難しい場合があります。
【腹腔鏡手術を行えない可能性がある患者様】
・複数にわたる下腹部の開腹手術歴。
・腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術後の再発。
・泌尿器科領域疾患の術後(膀胱全摘術や前立腺全摘術)。
・心臓、肺、脳など主要臓器の問題で全身麻酔が不可。
このような場合では鼠径部切開法を行いますが、術後入院が必要になることが予想される患者様には、提携先医療機関を紹介いたします。