鼠径ヘルニアとは
ヘルニアと聞くと、整形外科疾患の椎間板ヘルニアが真っ先に思いつくかと思いますが、これは椎間板が神経方向に飛び出た状態です。「ヘルニア」はラテン語で飛び出る、という意味があります。
「鼠径」は足の付け根を指すため、足の付け根部分が膨れた状態を鼠径ヘルニアといいます。日本語では「脱腸」のほうが馴染みがあるかも知れません。
鼠径ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアはお腹の中の小腸や大腸、内臓脂肪などが筋肉の間隙を通って皮膚の下へ飛び出てきた状態です。
そのため、足の付け根付近がピンポン玉くらいの大きさで膨らみます。膨らむ際に腹膜(お腹を包む袋)が伸びるので、引っ張られる感じや、下腹部に違和感を感じる場合もあります。また、膨らみが進行すると陰嚢に達することがあり、かなり大きくなり、日常生活に支障をきたすこともあります。
基本的な症状は、「立った状態やお腹に力を入れると膨らみ、仰向けになると引っ込み元通りになる」です。
鼠径ヘルニアの原因
鼠径ヘルニアの発生には、性別に差があり、男性:女性=9:1と言われています。
男性は胎児の時に睾丸がお腹の中で作られます。これが筋肉のトンネルを通って陰嚢内に降りた状態で出産されます。成長とともに筋肉が発達しトンネルが塞がりますが、歳をとるにつれて筋肉が弱くなり、トンネル部分が再開通します。これが女性よりも男性に多く発生する理由です。
加齢による筋肉の経年劣化以外の原因として、重いものを持つ作業、激しい運動、肥満、喫煙、便秘、慢性的な咳、前立腺肥大症など腹圧が上がりやすい状態や、先天的にコラーゲン異常を有した状態が挙げられます。
鼠径ヘルニアの嵌頓状態(嵌頓の危険性)
膨らんだ状態でも手で押したり横になれば自然と元に戻りますが、膨らみが元に戻らず痛みを生じた場合は、「嵌頓」を疑います。
嵌頓とは、脱出した腸管が筋肉で首を絞められた状態です。腸管に血流障害が生じ、最悪の場合腐ってしまいます。嵌頓を発症した場合、緊急手術が必要になりますので、膨らんだままになっていたり、痛みが強くなってきた場合はご連絡ください。
鼠径ヘルニアの検査・診断
鼠径ヘルニアの診断には、身体の視診と触診が基本になります。しかし、実際に鼠径ヘルニアが生じている場所や飛び出ている臓器を評価するために、超音波検査を併用します。
また、より詳しい検査が必要と判断した場合には、提携病院で腹部CT検査を行い、より詳しく評価します。
鼠径ヘルニアの治療
鼠径ヘルニアの原因が筋肉にあるため、薬による治療はできません。また、すでに開いてしまった筋肉はトレーニングを行っても補強はできません。完治を目指すには、外科的に手術を行う以外に方法はありません。
手術方法は以前からの「鼠径部切開法」と内視鏡を使用した「腹腔鏡下手術」の2パターンがあります。
ヘルニアバンドを使用した患者様がおられますが、腸を押しつぶす危険もあるため、推奨致しません。